『バジュランギおじさんと小さな迷子』を観るのは今回で3度目になるが、やはりどうしても毎回胸を打たれてしまう。大筋を知っていても、「来る」と分かっていても、気づけば目頭が熱くなる。そんな映画体験はそう多くない。
まず何より、迷子の少女シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)がとにかくかわいい。病気で声を発することができない彼女は、身振りだけで感情を伝えるが、その表情の豊かさ、健気さに何度心が揺さぶられたことか。
物語は、パキスタン人の少女がインドのムスリム聖廟へ巡礼に訪れた帰り、母親とはぐれてしまうところから始まる。紛失物が靴や傘ならまだいい。だが「国境を越えて我が子を失う」というのは、想像しただけで震えあがる。二児の父である私はどうしても親目線で観てしまうのだが、もし自分がうっかり北朝鮮に子どもを置き去りにしてしまったと考えると、胸が張り裂けるどころではない。正直、生きていける気がしない。
本作が製作された2015年頃、インドとパキスタンの間には依然として緊張があった(今年に入って両国は停戦合意に至ったというニュースもあるが)。そんな両国関係を背景に、バジュランギことパワン(サルマーン・カーン)が少女を故郷へ返そうと奮闘する物語は、単なるロードムービーではない。政治と宗教、ふたつの「壁」を同時に描き出している点が非常に興味深い。
パワンは敬虔なヒンドゥー教徒で、ムスリムに対して偏見すら持っていた。しかし少女やモスクの人々との出会いを通じて、彼自身の内側にあった宗教間の境界は崩れていく。彼の“無償の愛”の行動が、国境を越えて多くの人々の心を動かし、政治的な壁すら揺るがす――そこに本作の核があるように思う。
もっとも、インド側の製作であるためか、パキスタン人が少しステレオタイプに描かれているのでは……と感じる場面もあった。「すぐ嘘をつく」「物を盗む」など、ややデフォルメされた描写がチラつくのは否めない。ただ、物語全体としてはパキスタン側の善意や優しさをしっかり描いており、テーマ性を損なうほどではないと思う。
ちなみに、この作品のBR/DVDは現在どうやら絶版になっているようだ。めぼしいサブスクサービスでも視聴可能なところは今のところはなさそう。最初に劇場で観て、発売と同時にDVDを確保していた身としては、あのとき買っておいて本当によかったとつくづく思う。
何度観ても、心が洗われるような映画。
もし未見の方がいたら、何とかソフトを手に入れてぜひこの物語に触れてほしい。きっとパワンのように、世界の見え方が少し優しくなるはずだ。
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